てにをは64アウトラin

前回のあらすじ:BLゲーやるために古いPCを新調しちゃうぞ。

「あの、ちょっとはしょりすぎてやしませんかね?」
「あまり細かいところ突っ込んでると気苦労が増えるぞ」

 運ばれてきたアイスティーにストローを突き立てると、それをぐるぐる回してみた。
 淡い褐色に浮かぶ氷は「くぁららん」と音をたてて渦潮に飲まれていく。その様はアリ地獄のようで、何となく和む。しゅっぼ、しゅっぼ。
「だいたい、私、ゲームってしか言ってないし」
「腐女子が嗜むゲームとはBLだと相場は決まっている。否定してみろ」
「肯定はしない」
 やれやれとアシモフ氏(仮)は窓の外を見下ろす。下界を行き交う人々は誰もせわしなく、皆汗をぬぐっている。優越感に浸っていられるのもこのアイスティーを飲んでいる間だけ。
 そして、用件が済めばこのおっさんともおさらばよ。ほほほ。

「ありがとうございました」
 支払いを済ませて階段を降りると、先に店を出たおっさん。
「ごちそうさんでした」
「自分の支払いくらい済ませときなさいよ!なんでトイレから帰ったら居ないの!?なんで先に店出ちゃうの!!」
 ふつう支払いは別々でしょ。初対面ならなおさら。
「この店テーブルごとの勘定だし。はんぺん氏お金持ってるでしょ?」
「そりゃ持ってるわよ。パーツ買いに来てるんだから」
「デスヨネ。じゃ、店案内するわ」
「じゃ、じゃないでしょ。一人で涼しい顔して!お金。払って。アイスティーだけで3,000円超えないわよね。ね」
 ああ、なんだかやる気失せてきた。この人大丈夫かなぁ。
「サポート料としては破格なんだけどね。どうせパーツ買って帰ったところで組み立ては無理でしょ?」
「そりゃ、まぁ。全部まるまる買うわけじゃないし。って、まさかウチに来るの!?」
「いちいち騒がしいな。行くわけないでしょ。出張費くれるってんならそうもするけど」
 こんなの家につれてったら、お母さんに何言われるかたまったもんじゃない。
 見た目は悪くないけど、絶対性格が普通じゃないし。
「買いに行く前から疲れた」
「なんだ突っ込み疲れたのか」
「ええ、そうよ。アンタのいい加減さの何割かでも分けてほしいくらいよ」
 そう言うと「いくら出すんだい?」って馬鹿にするにもほどがあるわよ。

 とりあえず元を取るまでは付き合うしかないと腹をくくって、いざゆかん、電気街。
 大きな通りの横断歩道で信号待ち。お店の壁には蛍光色でいろいろ商品名が貼り出されている。活気があるんだなぁ。この不景気にものが普通に売れるなんて、この街は日本じゃないみたい。

 信号が青に変わると、縦横無尽とも思えるくらい人の波が交差する。時々漂ってくる変な臭いにむせながら私はアシモフ氏(仮)の後を追いかける。見た目は穏やかなのに、人混みをすり抜ける足並みは容赦なく、だんだんと距離が離れていく。
 横断歩道を渡りきったところで待ってくれるのはいいけど、そのうちこれ、はぐれる。自信ある。

「まだ100メートルも歩いてないのに」
「基本的に歩幅から違うんだし、そもそも競歩しに来たわけじゃない」
「それならはんぺん氏が先に歩くといい。後ろから曲がる方法を指示するから」
「なんでそうなる?」

 果たしてBLゲーはいつになったら始められるのか!?

「それももういい」

「誰と話してるんだか」

 続く

 兄から譲り受けたパソコンは相当年季が入っていた。

 どの程度古いのか。とりあえずインターネットに接続できるようになっていたのは幸いだった。
 私はありったけの知識で、質問のページにどうしたらいいのか書き込んでみたのである。
 しかし、1日たっても、3日たっても一向に返事がない。ひょっとしたら、これ、インターネットにつながってるふりして単なるワープロなんじゃないかしら。だとしたら私も相当ヤキが入ってるとしか思えない。
 旧式とはいえ兄の自作したパソコンは、学校の授業で出された検索の宿題もごく普通にできたし、ゲームで遊ぶこともできた。

 唯一の悩みは、買ってきたゲームは中にCDが入ってたけど、読めなかったのよね。レンズクリーナーで掃除してもダメだった。

 久しぶりにインターネットを見たら、返事があった。

1.はじめまして。どれくらい古いのか機種名とOSの種類を教えてください。
2.あのー、掲示板見てますか?
3.質問しといてなげっぱかよ。
4.おーい。ばか。質問したのも忘れてるのかー?

「これ、どう見ても同じ人間よね」
 まぁ、書き込んでから3ヶ月放置してたのは私が悪いと認めよう。だが、なんでここまで言われなきゃなんないの。
 せっかくの貴重なお返事をみすみす逃すなんてね。えっと、機種は自作で不明です。っと。OSは確かN40とかだったかしら。
 今度は書き込みの次の日に返事がきてた。えっと、なになに。

5.NT4.0だとしたら生きた化石だな。自作する人がいるんならそっちに頼めばいいのに。

 いたら苦労しないわよ。いないから質問してるっての。
 あと、私の小遣い貯めたのもそんなにないから、なんとか部品交換で済ませたいのよ。

6.たぶんごっそり交換になるだろうな。今のスペックで事足りてるなら、余ったパーツを融通してもいい。

 そんな書き込みと一緒にメールアドレスが添えられていた。



 夏の日差しは暑い。これは自然の摂理。
 温室育ちにも等しい私にとって、ナチュラル且つワイルドなその日差しはオーブントースターの赤外線である。
 自転車に颯爽とまたがるまではよかったが、最寄り駅に着く頃には絞っても絞りきれないゾーキンのようなものになっていた。
 電車の中はといえば、これが無駄な余剰電力をこれでもかとばかりにクーラーがフル回転をしており、その分車輪の回転が遅くなってるんじゃないかってくらい過剰すぎる冷気を浴びせかかってきた。
「殺す気か!」思わず歯ぎしりしてつぶやきそうだった。

 待ち合わせに指定されたのは秋葉原の駅からすぐ近くの喫茶店である。
 高架下の雑居ビルの入り口にある狭い階段を上りきったところに店はあった。重厚そうな木の扉を押し開けると、電気街には似つかわしいとは思えない静かな空気で密になっていた。

「お一人様ですか?」
「いえ、えー、そう。は、はんぺんです」
 我ながら場所をわきまえない名前に。せめて“ああああ”くらいにしときゃよかった。
 いや、無難なら何でもいいというわけでは。なんでよりによってこんな店で。秋葉原っていうから、そうとう変じゃないとわからないと思ってた。末代までの恥よ!
 店員は「こちらへ」と窓際の席を案内する。緊張と恥ずかしさで床の継ぎ目で転びそうになった。

 その席にはひょろりとした風貌のいかにもな眼鏡の男が座っていた。
 普通に席を勧めたのでそのまま正面の椅子に腰掛ける。視線合わせづらい。
「よく初対面なのになぁ。しかも、本当にハンドルネームで」
「そういうあなたがアシモフさん?」
「そそ。普段は別の名前使ってるけど、(仮)って感じで」
 とくにどうこういう筋合いじゃないけど、用件だけはつきあってくれるみたい。しゃべり方も普通だし。
「メールで写真見たけど、キーボードも今の規格じゃないから全部買い換えだわ」
「えー、あれ使いやすくてよかったのに」
「今時ATコネクタなんて、変換コネクタは多分ないよ。それから、CPUファンのメーカーは玄人好みな三○製でしかもデュアルとは恐れ入った」
 写真だけでわかるもんなのね。お兄ちゃんも自分のパソコンを買い換えるまでは触らせてくれなかったしなぁ。

「ご注文はおきまりでしょうか?」
「アイスミルクティーで」
 グラスにはなみなみと冷えた水が注がれた。

 見た感じ、お兄ちゃんと同じかそれ以上。おじさんって感じはいないけど。
「一息ついたらショップでも巡ってみようか。ある程度絞ってるから、そんな歩くことはないよ」

 店を後にして、この言葉に裏切られたのはホントどうにかしてほしい。

 続く

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